第53回米国血液学会に参加させていただいた。
自分自身にとって初の海外学会、また約10年ぶりのアメリカ渡航であり、不安と緊張でいっぱいだった。
学会会場では会場自体の大きさにまず圧倒された。しかし一方で世界中から集まった血液関連の医師と
接し、これだけの医師が世界中にいて、世界中が一丸となり血液疾患と戦っているのだと実感し、
形容しがたいほどの感動を得た。
学会中は、急性骨髄性白血病の演題を中心に発表を聞いた。
以下にいくつか演題を述べる。
Abstract #1 :
BMT CTN Protocol 0201-results of a Phase Ⅲ Randomized Multicenter Trial
of HLA Compatible
Unrelated Donor Transplantation: G-CSF Mobilized
Peripheral Blood Stem Cells (PBSC) versus
Bone Marrow
現在米国において非血縁者間造血細胞移植では、約75%が末梢血幹細胞による移植が占めている。
血縁者間では末梢血のほうが骨髄移植より予後良好だった
1)が、非血縁者間移植においてはどうかと
いう点から、非血縁ドナーからの末梢血/骨髄細胞の予後を比較するランダム化試験を実施した。
プライマリーエンドポイントであるintent-to-treatによる2年全生存率で有意差がなく、どちらも標準治療と
して適応しうるとの結論となっ
た。
末梢血幹細胞移植では、生着率が高い一方で慢性GvHDが多いとの結果であり、生着不全や早期重症
感染症のリスクが高い症例に適応となる。
最後に、現在米国で末梢血幹細胞移植志向が強い今の流れは妥当といえるだろうか、という疑問を
投げかけていた。
Abstract #6
Fractioned Doses of Gemtuzumab Ozogamicin(GO) Combined to Standard
Chemotherapy (CT)
Improve Event-Free and Overall Survival in
Newly-Diagnosed De Novo AML Patients Aged 50-70
Years Old: A Prospective
Ramdamized Phase 3 Trial from the Acute Leukemia French Association
(ALFA)
ゲムツズマブ・オゾガマイシン(GO)の分割投与の有効性を指摘してきているALFAグループによる、
第三相試験の発表だった。GO3mg/㎡の分割投
与(day1,4,7)を標準化学療法に加えた群、標準化学
療法のみの群で分け、プライマリーエンドポイントは二年無再発生存率として比較・解析している。
治療効果は細胞遺伝学リスクの影響を受ける(予後不良群では有意差がなかった)ものの、
GO分割投与併用標準化学療法は、無再発生存率や全生存率を有意に改善するため、標準的first line
治療として考慮されうる、との結論だった。
2009年のASHで報告されたSWOGS01062)の結果を受けて米国から撤退したGOであるが、
今後の動向に注目される。
Abstract #84
Small molecule inhibition of SIRT activity: A novel therapeutic approach for acute myeloid leukemia
エピジェネティクス関連の演題である。遺伝子制御に働く点から治療の対象として近年注目されている
ヒストン脱アセチル化酵素(HDACs)の中でも、
SIRTファミリー、とくにSIRT1はAML細胞に多く発現して
いる点に注目した研究であり、SIRT1をターゲットにした治療の可能性を検討してい
る。
SIRT1の低分子阻害剤であるTenovin-6が、in vitroではprimary
AML細胞の活性を量依存的に減弱させ、
複数のAML細胞株でアポトーシスを起こすことを確認した。In
vivoとしてはMOLM13(M5a)異種移植マウス
モデルがTenovin-6の働きで著明に生存率を伸ばした。
以上から、SIRT活性をターゲットにした研究は今後も進めていくべきであると結んでいる。
英語論文でしか触れることができなかった海外の血液疾患の動向を肌身で感じることができ、
世界がぐっと身近になった。
また、滞在したホテルが会場から遠く、毎朝バスで会場まで行った。
バスの中で隣り合わせたイギリスやアメリカ、スイスなど様々な国から来た血液内科医師と話す機会が
あったのも今までにない経験であり、大変大きな刺激になった。
最後になりましたが、travel awardでASH201 annual meetingに参加させて頂くにあたり、
ご尽力下さりました諸先生方をはじめ、お世話になりました皆様に、心から御礼申し上げます。
ありがとうございました。
1) Stem Cell Trialists' Collaborative Group, JCO 2005
2)ASH 2009 Abstract #790