この度、JALSG Young Investigator ASH Travel Award 2022のご支援を賜り、64th ASH annual meetingに参加させていただきました。 2022年のASHは、アメリカ合衆国南部に位置するルイジアナ州ニューオーリンズで開催されました。昨年までと同様にオンラインでの参加も可能でしたが、本年は発表者には現地での参加が推奨され、COVID-19流行以前にかなり近い形で現地開催されたのではないかと思います。私自身もニューオーリンズでの現地参加をさせていただきました。日本では寒波の襲来がニュースとなっていた12月、ニューオーリンズは20℃を超える暖かさで、会場であるErnest N. Morial Convention Centerからミシシッピ川に沿った散歩道を下ると、柔らかな日差しと川風が心地よく感じられました。 ASHには以前にもオンラインで参加させていただいたことがあり、その時もたくさんの最新の知見に感動したのですが、現地での参加はそれ以上に素晴らしいものでした。朝早くから夜遅くまで行われる講演は、最新の研究内容に加え、臨床の現場で疑問に思っていた内容などどれも魅力的で、どのセッションに参加するか非常に悩みました。ポスター会場では、presenterが順番に発表するわけではないのですが、参加者とのdiscussionがあちこちで起こり、その熱量に圧倒されました。 今回、私がASHに参加するにあたり、最も興味を持っていたのが急性骨髄性白血病(AML)の治療でした。FLT3阻害薬やvenetoclaxが使用できるようになり、治療の選択肢は増えましたが、日本にはまだドラッグ・ラグが存在します。従来の“3+7”に始まる強化化学療法に抵抗性の患者様や重篤な感染症を併発しその後の治療継続が困難になる患者様を経験し、また、白血病細胞の遺伝学的特徴が一般臨床で調べられるようになり、新規の薬剤が使用可能となる中で、従来の化学療法と新規薬剤、同種造血幹細胞移植をどのように組み合わせることがAMLの最適な治療となりうるのか、世界のspecialistの先生方の考えを知りたいと思っていたのです。そんな中、私はPlenary Sessionで報告されたASAP trialの結果に衝撃を受けました。治療抵抗性もしくは再発のAMLに対して、同種造血幹細胞移植前に施行される強化化学療法が生存率に寄与しないことが報告されました。強化化学療法の対照群では、大半の患者でwatchful waitが選択されており、一部で低用量シタラビンやミトキサントロンの治療が施行されていたのみでしたが、強化化学療法群と対照群の生存曲線に差は見られませんでした。この報告は、私の中で“常識”であったAML治療の考え方を大きく変えるものでした。また、教育セッションでは、AMLにおけるMRD測定や、TP53を標的としたAPR-246・予後不良染色体であるKMT2A rearrangementを標的としたmenin inhibitorなどの新規薬剤をわかりやすく解説していただき、大変勉強になりました。これらの薬剤は日本ですぐに使用できるものではなく、今すぐ治療戦略を再考するものではないと思います。しかし、新たな治療戦略によりAMLの予後が改善することを期待せずにはいられません。薬剤の選択や治療方針の決定には、遺伝子検査やMRD測定も今後ますます重要になるでしょう。患者様に最適な医療を提供するために、このような最新の知見を得ることがいかに大切かということを改めて強く感じ、臨床医として身の引きしまる思いがいたしました。 今回、ASHに参加させていただき、たくさんの最新の知見に触れ、知識の整理や臨床の疑問を解消することができました。また、日々の臨床の中で疑問を持ち、疑問を解消するために必要な研究を計画すること、その成果を世界に発信していくことが如何に大切なことか改めて気づかされました。臨床医師としても研究者としてもまだまだ未熟ではありますが、目の前の患者様のため、医療の進歩のために少しでも尽力できるよう、切磋琢磨していきたいと思います。最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださいましたJALSGの関係者の皆様に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 |