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成人急性リンパ性白血病

JALSG 成人急性リンパ性白血病の治療成績

 急性リンパ性白血病acute lymphoblastic leukemia (ALL)の治療目標は疾患の治癒です。
小児ALLは過去数十年 あまりの間に治療成績は飛躍的に向上し、80%以上の患者さんが長期生存できるようになり、治癒可能な疾患となりました。しかしながら成人ALLの治療成 績はまだ満足できるところまで届いておらず、治癒は一部の患者さんに限られている状況です。
  JALSGではALL治療プロトコールとして、1987年よりALL 87、 90、 93、 97と行い、現在ALL202を実施中です。 ALL87、90、93ではALL全病型を一つの治療プロトコールで行いました。白血病細胞表面に免疫グロブリンを有する成熟B細胞ALL(B-ALL) は頻度は少ないながらも、従来予後不良ALLの代表的なものの一つでした。しかし、シクロホスファミドとメソトレキサートを多量に用いる治療法が有効であ ることがわかり、JALSGでもALL97からこの病型は別プロトコール(B-ALL97)で治療することになりました。
  成人ALLの治療成績が小児ALLよりも劣ることについてはいくつもの理由があります。その中でも予後不良のPhiladelphia染色体(Ph) 陽性ALLが成人ALLの20-30%をしめることが最大の問題でした。しかし、BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬イマチニブ(グリベック)が開発さ れ、Ph陽性ALL治療の突破口となりそうです。ALL202ではPh陽性ALLに対してイマチニブを使用する別プロトコール、Ph ALL202を作成 しました。
  ALL87、90、93の治療成績とPh ALL202の中間解析がすでに論文で発表されています。ALL97、B-ALL97は現在解析中です。


JALSG ALLプロトコール

プロトコール 登録期間 登録症例数
ALL87 1987-90 121
ALL90 1990-93 183
ALL93 1993-97 285
ALL97 1997-2001 434
ALL87 1987-90 121
B-ALL97 1997-2004 121
ALL87 1987-90 34
ALL 202 2002-
Ph ALL202 2002-

ALL87プロトコール

プロトコールの概要:
JALSGのALL治療研究の最初のプロトコールです。
寛解導入療法はアドリアマイシン(ADM)、ビンクリチン、プレドニゾロン、 シクロホスファミド(CPA)、
L-アスパラギナーゼからなり、治療15日目のCPA、および22日目のCPAとADMはオプション投与とされました。
寛解後療法として3コースの地固め療法、2年間の維持療法が行われました。
ALL87プロトコール
図1. ALL87の全生存曲線と無事故生存曲線
治療成績:
1987年12月から1990年3月の間に15施設より121例が登録され、評価可能例は116例でした。年齢中央値は38歳(15~72 歳)、完全寛解率は83.6%でした。6年の全生存率と無事故生存率はそれぞれ23.4%と20.0%でした。寛解症例の6年生存率と無病生存率はそれぞれ28.2%と24.5%でした。寛解導入療法時の中枢神経系予防の必要性を検討するために、治療8日目に髄注群と非髄注群に分けて比較試験が行われましたが、両群間に差はみられませんでした。
(Tanimoto et al: Int J Hematol. 68:421,1998)

ALL90プロトコール

プロトコールの概要:
寛解導入ではresponse oriented individualized  therapyがALL87よりもさらに明確に導入され、オプション投与が多く設定されました。
薬剤の種類としてはALL87と同じものにミトザントロンが加えられました。
寛解後療法には4コースの地固め療法の後に、メソトレキサートと6-メルカプロプリンによる維持療法と3コースの強化療法が行われました。
ALL90プロトコール
図2. ALL90の全生存曲線
治療成績:
1990年10月から1993年11月までの間に27施設より183人が登録され、180人が評価可能でした。
年齢中央値は43歳(15~78 歳)、完全寛解率は69.4%、6年の全生存率、無事故生存率、無病生存率はそれぞれ15%、10%、14%でした。成績がALL87よりも不良となった 原因の一つは年齢が高い患者さんが多かったことがあげられます。30歳未満で治療開始時の白血球数が3万以下の患者さんの6年生存率は49%でした。
(Ueda et al: Int J Hematol. 68:279,1998)

ALL93プロトコール

プロトコールの概要:
寛解導入療法は従来のresponse-orientedではなく、set療法を基本としました。
アドリアマイシンを早期に頻回投与 し寛解率の向上を目指しました。寛解後療法は、3コースの地固め療法、さらに6週間のメソトレキサートと6-メルカプロプリンによる維持療法後に、4コー スの強化療法を連続的に行う群と維持療法をはさみながら間欠的に行う群に無作為に割付けた比較が行われました。
造血細胞移植の成績は移植を受ける患者さん の選択にバイアスが生じるために化学療法の成績と単純には比較できません。そこで40歳未満の寛解した人で、同胞ドナーがいる場合は第一寛解期に積極的に同種造血細胞移植をすることとし、実際の移植施行の有無を問わずに移植群として前向きに解析することにしました。

治療成績:
1993年12月から1997年2月の間に285人が登録され、263人が評価可能でした。
年齢中央値は登録を60歳未満としたため31 歳(15~59歳)でした。完全寛解率は78%で、6年の全生存率と無病生存率はそれぞれ33%と23%でした(図1)。強化療法の連続群と間欠群では治療成績に差を認めませんでした。40歳未満の完全寛解例は142名で同胞ドナーいる人は34名(移植群:実際に第一寛解期に移植を受けたのは24名)で、ドナーのいない人は108名(化学療法群:17名は非血縁移植を第一寛解期に実施)でした。両群の生存率を比較しましたが、移植の優位性は認められません でした(図2)。ただし、フィラデルフィア染色体陽性の場合は化学療法が著しく不良のため、移植の方が生存率はよい結果となりました。予後因子は年齢、フィラデルフィア染色体、治療開始時白血球数でした。30歳未満、フィラデルフィア染色体陰性、治療開始時白血球数が3万未満の患者さんの全生存率は 53%でした。

(Takeuchi J et al. Leukemia 26:1259,2002)


ALL93プロトコール
図1.全生存曲線と無事故生存曲線
ALL93プロトコール
図2.造血細胞移植群と化学療法群の生存曲線

ALL87,90,93の予後因子

Philadelphia染色体陽性ALLの年齢別頻度
図1.Philadelphia染色体陽性ALLの年齢別頻度
 ALL87、90、93の3つのプロトコールの成績をまとめて、予後因子をみると年齢と治療開始時白血球数、それにPhiladelphia染色体 (Ph)になります。Ph陽性ALLは年齢が高くなるにつれて比率が高くなる傾向があります(図1)。そして予後は非常に不良で、87から93までの三つ のプロトコールでは造血細胞移植を受けた人を除くと長期生存の人はいませんでした。
  Ph陽性を高リスク群、治療開始時白血球数3万以上でPh陰性を中間リスク群、両リスクがないものを低リスク群と大きく3群に分けることができます(図2)。
  両リスクを持たない場合は30%が長期生存となります(図2A)。その中で30才未満の場合、約半数の人が長期生存をえることができました(図2B)。
JALSG ALL 87,90,93の予後リスク別全生存曲線A
JALSG ALL 87,90,93の予後リスク別全生存曲線B
図2.JALSG ALL 87,90,93の予後リスク別全生存曲線Aは全例、Bは30歳未満。リスクの説明は本文を参照。
染色体データーが判明している患者さんのみを解析。 造血細胞移植例は移植時点でセンサー。

JALSG Ph ALL202

プロトコールの概要:
Ph陽性ALLは最も難治性のALLで、従来の化学療法では長期生存をほとんど期待できませんでした。
このタイプのALLは慢性骨髄 性白血病(CML)と同じ遺伝子異常(BCR-ABL融合遺伝子)を持つため、
CMLの治療薬として開発されたBCR-ABL阻害薬イマチニブ(グリベッ ク)の効果が期待できます。
イマチニブはCMLには認可されていますが、ALLについてはまだ認可されていません。JALSGでは製薬
メーカーよりイマチ ニブの提供を受けて、その有効性を検討しました。イマチニブ単剤では薬物耐性の出
現が高いと考え、イマチニブと従来の抗がん剤を治療開始早期より併用し、 移植が可能な患者さんには
積極的に移植を勧める治療法にしました。

治療成績:
80人が2002年9月から2005年1月に登録されました。 77人(96.2%)が完全寛解(CR)となりました。PCR法によるBCR-ABL キメラmRNAの定量では71.3%で陰性となりました。治療毒性は従来の化学療法だけの治療法によるものと差はありませんでした。39人が第1CR期で 同種造血細胞移植を受けました。1年の無イベント生存率および全生存率はそれぞれ60.0%と76.1%でした。その成績は化学療法単独で治療した JALSG ALL 93の成績と比較して有意に優れていました(図1)。移植を受けなかった人だけをみても、以前の治療法よりも明らかに優れた成績を示しています(図2)。 はたして移植を受けなくても長期に寛解が維持できるかどうかは、今後の経過をみる必要があります。

(Yanada et al. J Clin Oncol. 24:460,2006)
ALL202とALL93の全生存曲線
ALL202とALL93の無事故生存曲線
図1. ALL202(イマチニブ併用治療:n  = 80)とALL93(化学療法のみ:n = 51)の無事故生存曲線と全生存曲線
ALL202とALL93の全生存曲線(移植を受けなかった人)
ALL202とALL93の無事故生存曲線(移植を受けなかった人)
図2. 移植を受けなかった人のみのALL202(イマチニブ併用治療:n  = 31)とALL93(化学療法のみ:n = 32)の無事故生存曲線と全生存曲線
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